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ナーシングホーム業界の動向を探る、変化する社会と今後のニーズ

#そのほか

2007年に超高齢社会を迎えた日本では、今後も高齢化率が高まり続けると予測されています。健康寿命延伸、介護度の重度化防止等を目的にいろいろな取組みが展開されていますが、高齢者の人口が増加すれば、必然的に医療や介護の需要が増えるものです。

しかしながら、慢性期はじめ、病院のベッド(病床)数は削減される一方です。そのため、継続的に医療・介護を必要とする人たちの行き場が失われる可能性が出てきています。

そんな中、医療・介護のニーズに応える「ナーシングホーム」が増加しています。

入院加療から在宅療養の流れに

厚生労働省が掲げる「地域医療構想」では、病床(医療機関におけるベッド数)の機能分化・連携が推進されています。これは、①効率的かつ質の高い医療提供体制の構築すること、②地域包括ケアシステムの構築することを目的とした取組みです。

機能分化・連携が進めば、適切な医療機関で必要な医療を受けやすくなるでしょう。しかしながら、実態としては、医療機関全体の病床数が削減され、必要な医療が受けられないケースも多くなると懸念されています。

2015年には125.1万床あったベッド数は、2018年には124.6万床に減少し、さらに2025年には121.8万床になることが見込まれています。

(参照元 厚生労働省|地域医療構想について

注目は、回復期病院の病床数が増加する一方で、高度急性期・急性期・慢性期病院の病床数が大きく減少することです。全身状態が安定したら回復期で積極的にリハビリを行い、その後は地域・在宅でケアしていくことを促す方針が見て取れます。

医療的ケアが必要で、従来であれば医療機関で入院加療していたケースも、今後は退院を余儀なくされ、在宅療養せざるを得ない可能性が高まっているのです。

医療・介護の複合ニーズが増加する

介護サービスの必要度を判断する要介護度の認定率は、年齢とともに上昇し、特に85歳以上で上昇します。2025年度以降、後期高齢者(75歳以上)の増加はゆるやかとなりますが、2040年に向けて引き続き増加すると見込まれています。

(参照元 厚生労働省|政策からみた在宅医療の現状について

そうなると、増えてくるのが医療と介護の複合ニーズです。

例えば、神経難病による疼痛をコントロールするとともに、食事や排せつをはじめとするケアを必要とするといったように。年齢が上がると病気や障がい等を抱えるリスクが高まり、医療・介護どちらも受けながら生活する方も多くなります。それに伴い、配偶者や親等を介護しながら生活する家族も増えていきます。

同居する家族(主な介護者)の介護時間を要介護度別に見てみると、要介護3で31.9%、要介護4で41.2%、要介護5で63.1%が、ほとんど終日介護を行っている状況です。

(参照元 厚生労働省|2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況

介護度や医療依存度が高くても、可能な限り「自宅で一緒に暮らしたい」と希望される家族は多いです。一方で、日々の介護に疲弊していたり、不安を感じていたりする家族も少なくありません。また、単身のため、サポートが必要であっても同居できる介護者がいないという人も増えています。

このような事情を踏まえると、在宅生活が難しい方やその家族のニーズに応えられる、「医療と介護どちらも提供できる施設」の需要が高まってくると推測されます。

「ナーシングホーム」という、これからのビジネスモデル

医療・介護の複合ニーズが高まる中、近年、介護施設の定員数(病床数)が増加しています。

なかでも増えているのが「有料老人ホーム(以下、老人ホーム)」と「サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)」です。

(参照元 内閣府|令和4年版高齢社会白書(全体版)

高齢者向け住まいのニーズが多くなるにつれ病床数が伸びています。それだけでなく、医療的ケアの提供体制を強化(訪問看護と連携等)し、「ナーシングホーム」として施設をモデルチェンジする動きが拡大しているのです。

介護保険制度でも、平成18年度に中重度者への支援強化を掲げて以降、介護施設における『中重度者ケア』『医療』『看取り』の体制づくりが推進されています。これからの介護施設には、従来の介護に加え、これら3つのポイントを押さえたサービスがますます求められるでしょう。

経営面から見たナーシングホームのメリット

ナーシングホームは、「老人ホーム」や「サ高住」に、医療従事者(看護師等)を常駐させることで、医療・介護どちらも提供できる体制を整えた介護施設です。入居者・家族からすれば、日常的に医療・介護が必要な状態にあっても、専門スタッフの支援を受けながら安心して生活できるのが特長です。

それに加え、ナーシングホームは、経営面から見てもメリットが大きいです。というのも、一般的な施設サービスが「月額固定費(家賃・食費等)+介護報酬」で売上を得るのに対し、ナーシングホームは「月額固定費(家賃・食費等)+介護報酬+診療報酬(医療保険)」で売上を得ることが可能だからです。

 固定費(家賃等)介護報酬診療報酬
一般的な施設サービス×
ナーシングホーム

現在、老人ホームやサ高住を展開する事業者からすると、固定費・介護報酬に診療報酬分の売上を上乗せすることができます。また、訪問看護ステーションを展開する事業者にとっては、売上に固定費が加わるだけでなく、看護師等の移動の時間を削減し、効率的に医療・介護を提供することができます。

複合ニーズに応える介護施設が求められる

高齢化がますます進むなかで、病床数は削減されてきています。従来であれば医療機関で加療できましたが、これからは、「地域で生活しながら療養しなければならない」というケースが増えると予想されます。そうなると、受け皿となるサービスが必要です。

老人ホームやサ高住では、訪問看護等を活用することで、複合ニーズに応えられる介護施設にモデルチェンジすることが可能です。「ナーシングホーム」は、利用者・家族からすると継続的な医療的ケアと介護を受けられる頼もしい存在です。経営面からすると、固定費・介護報酬に加え診療報酬による売上を得ることができ、採算のとりやすいビジネスモデルでもあります。

介護保険制度の流れとしては、『中重度者ケア』『医療』『看取り』の体制づくりを推進していますが、そうしたニーズを満たす施設は決して多くありません。介護サービス事業者として他社と差別化を図り、「選ばれる介護施設」になっていくには、ナーシングホームにモデルチェンジしていくのも選択肢のひとつではないでしょうか。

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