人口の少子高齢化が進み、医療費削減とそれに伴う慢性期病床が減少。それにより、医療・介護どちらも提供できる新たな施設として、ナーシングホームが注目されています。
ナーシングホームは、医療依存度の高い人たちを対象に、介護だけに留まらずいろいろな医療処置を行う老人ホームです。居住費に加え、運用次第で介護・医療報酬からの収益を得ることが可能です。
ここでは、ナーシングホームを開設するための方法を説明するとともに、収益モデルについてお伝えします。
ナーシングホームを開設するには
2023年現在、日本では、ナーシングホームを運営するための基準は特に設けられていません。そのため、一般的な老人ホームの設置・運営基準を守れば、ナーシングホームとして医療・介護を提供する施設の開設・運営が可能です。
「老人ホーム」と一口に言ってもいろいろな種類がありますが、ナーシングホームとしてもっとも開設しやすいのは住宅型有料老人ホームです。というのも、住宅型有料老人ホームは他の老人ホームに比べ規制が少ないからです。
住宅型有料老人ホームをベースにナーシングホームを開設するには、①設備基準 ②運営基準を満たす必要があります。
①設備基準
- 居室は個室とし、入居者一人あたり床面積13㎡以上とすること。
- 医務室を設置する場合には、医療法施行規則第16条 に規定する診療所の構造設備に適合したものとすること。
- 要介護者等が使用する浴室は、身体の不自由な者が使用するのに適したものとすること。
- 要介護者等が使用するトイレは、居室内または居室のある階ごとに居室に近接して設置すること。また、緊急通報装置等を備えるとともに、身体の不自由な者が使用するのに適したものとすること。 ・介護居室のある区域の廊下は、入居者が車いす等で安全かつ円滑に移動することができるよう、一定上の幅を確保すること。
②運営基準
- 管理規定を制定すること(入居定員・利用料・サービス内容・医療を要する場合の対応等)。
- 入居者名簿を整備すること。
- 老人福祉法に基づく帳簿を作成すること(利用料受領の記録、提供したサービス内容の記録等)。
- 業務継続計画(BCP)を作成・随時変更すること。
- 「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を遵守すること。
- 非常災害時を想定した計画の作成と訓練の実施。また地域住民との連携に努めること。
- 概ね6ヵ月に1回、感染症の発生やまん延防止のための委員会を開催すること。また、職員に対し、感染症の発生やまん延防止のための研修・訓練を定期的に行うこと。
- 事故・急病などに対応できるよう具体的な計画を立て、定期的に緊急時対応の訓練を行うこと。
- 医療機関・歯科医療機関と協力体制を構築するとともに協力内容を決めておくこと。また、入居者が適切に健康相談や健康診断を受けられるよう、協力医療機関による医師の訪問や、嘱託医の確保などの支援を行うこと。
- 近隣に設置されている介護サービス事業所について、入居者に情報提供すること。
- 運営懇談会を設置すること。設置が難しい場合は、地域との定期的な交流や入居者の家族との個別連絡体制を確保すること。
(参照元 厚生労働省|有料老人ホームの設置運営標準指導指針について)
なお、住宅型有料老人ホームには、介護職員や看護師等の人員配置基準は設けられていません。例えば、ナーシングホームとして、施設内で看護師による医療処置や介護士によるレクリエーション等を提供する場合には、それらのサービスに必要な設備等を設けることが必要です。
以上が、住宅型有料老人ホームをベースにナーシングホームを開設するための遵守すべき基準です。基準を満たした上で、管轄となる都道府県に届け出ることで、ナーシングホームを開設することができます。
ナーシングホームの参入条件
ナーシングホームの開設は、民間事業者(株式会社等)でも可能です。住宅型有料老人ホームと同じように設備・運営体制を構築すれば開設できるので、参入のハードルは低いと言えるでしょう。
ナーシングホームの開設でもっとも課題になるのは、医療提供体制を整備することです。
医療依存度の高い方に入居してもらい医療・介護を提供するには、24時間365日の医療提供体制(看護ケア)を構築しなければなりません。これには、①看護師常駐の施設をつくる ②在宅療養支援診療所・病院または訪問看護ステーションに訪問看護を依頼する方法があります。こうすることでいつでも看護ケアを提供できるようになり、日常的に医療・介護が必要な方の受入れが可能となるのです。
また、医療依存度が高くなれば、日常生活のいろいろな場面で介護が必要になるケースが多いです。そのため、入居者の介護ニーズに応えるには介護職員を雇用したり、訪問介護を利用しやすくしたりして、介護のマンパワーを確保することも大切です。
ナーシングホームを解説する時には、入居者が安心できる施設にするとともに、快適な生活が送れることを意識して人員体制を整えましょう。
ナーシングホームの収益モデル
ナーシングホームでは、施設の居住費、提供した介護サービス(介護報酬)、提供した医療サービス(診療報酬)が主な収益です。
事業者として自社で介護・医療サービスを提供できる仕組みを作れば、居住費+介護報酬+診療報酬による収益が得られ、一般的な老人ホームを運営するよりも収益性が高くなります。例えば、すでに訪問看護ステーションを運営している事業者であれば、住宅型有料老人ホームを開設し、そこで自事業所の訪問看護を提供することで居住費と医療保険または介護保険による報酬が得られるのです。
ただし、収益アップにつながるからと言って、入居者に選択してもらうことなく自社の医療・介護サービスを提供した場合には、違反の対象になるので注意しましょう。
- 入居者が、医療機関を自由に選択することを妨げないこと。協力医療機関及び協力歯科医療機関は、あくまでも、入居者の選択肢として設置者が提示するものであって、当該医療機関における診療に誘引するためのものではない。
- 入居者の介護サービスの利用にあっては、設置者及び当該設置者と関係のある事業者など特定の事業者からのサービス提供に限定又は誘導しないこと。
(参照元 厚生労働省|有料老人ホームの設置運営標準指導指針について)
ナーシングホームは、老人ホーム経営の新たなビジネスモデル
有料老人ホームは年々増加しており、安定して経営したり、新規参入したりするのが難しい状況です。特に住宅型有料老人ホームの数は2013年に189,000箇所であったのに対し、2019年には1,5倍の293,326箇所にとなっています(厚生労働省|特定施設入居者生活介護 )。
その一方で、医療業界では慢性期病床が減少し、医療依存度の高い患者の受け皿が少なくなってきています。介護度が高くなると、家族が自宅で介護するのは難しい場合もありますし、単身世帯であれば介護保険をフル活用しても生活困難なケースもあるでしょう。また、介護施設に入所・入居しようにも、医療依存度の高い方では入所・入居を断れてしまうこともあるのです。
このような状況を踏まえると、従来の老人ホームに医療提供体制を強化したナーシングホームは、医療・介護が必要な人たちの生活の場として、今後も需要が高まっていくでしょう。
“住み慣れた地域で自分らしく暮らす”ためのナーシングホーム
日本では、2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築を推進しています。地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳保持と自立生活の支援を目的に、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで送れるよう支援・サービスを提供する体制のことです。「住み慣れた地域で自分らしく暮らす」とは言っても、自宅・病院・介護施設など生活の場はさまざまです。
しかしながら、病床数削減に加え、老々介護・介護離職などの問題もあり、医療・介護どちらも必要とする人たちの行き場はなくなっています。一方で、最近では、医療・介護どちらも継続的に受けられるナーシングホームが増えています。自宅で生活するのは難しい、介護施設に入居を断られたなどの問題で悩んでいるのでしたら、「住み慣れた地域で自分らしく暮らす」場として、ナーシングホームを検討されてみてはいかがでしょうか。