高齢化率が約3割になり、介護を必要とする人(要支援者・要介護者)が増加したことで、介護サービスに対するニーズが高まっています。街を歩けばデイサービスの送迎車が頻繁に行き交ったり、高齢者向け住宅が点在していたり、介護の市場拡大を肌で感じることも多いです。
一方で、東京商工リサーチ※1の調査によれば、令和4年の老人福祉・介護事業の倒産は新型コロナウィルスの影響による利用控えに加え、物価高や人手不足等により、過去最多の143件(前年比76.5%)となっています。
倒産リスクが高まる中、これから介護業界に参入するのであればどのような事業を行うべきなのでしょうか?ここでは、介護業界の市場状況を紹介するとともに、これから参入すべき注目の事業を紹介します。
(※1株式会社東京商工リサーチ|コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~)
介護業界の市場状況
ご存じの通り、日本の高齢化率は年々上昇しており、令和5年には29.1%と過去最高を更新しました。高齢者人口が増加し、介護を必要とする方も増えたことで、社会全体の介護ニーズが高まっています。
厚生労働省がまとめた「介護分野の最近の動向について」によれば、令和4年の介護給付費は10.2兆円で、10年前よりも3兆円も増加しています。介護給付費とは、介護保険からサービス事業者に支払われる費用のことです。要するに、数字的に見ても、より多くの方が介護保険を利用しているのです。
ここで注意が必要なのは、介護保険の利用者が増加しているとはいえ事業者として確実に利益を上げられるわけではない、ということです。なぜなら、介護給付費が膨れ上がる中で介護報酬の大幅なプラス改定は期待しにくいですし、物価高等で事業者のコストは高まっているからです。実際に、令和5年9月に特別養護老人ホーム(特養)を対象に行われた「社会福祉法人経営動向(福祉医療機構)」では、88.3%の事業者が原油価格や物価高騰により前年度よりも負担が増したと回答しています。
このような現状を踏まえると、「介護ニーズが高まっているから介護事業を行う」といったように短絡的に考えるのはおすすめできません。経営者としては採算がとれる介護サービスを見極め、しっかりと利益を出していける事業への参入を考えていくべきです。
参入すべき注目の事業とは?
では、どのような業態が伸びているのでしょうか。ここからは、新たに介護事業に参入するとして注目すべき2つの事業を紹介します。
訪問看護事業
ひとつは、訪問看護ステーションを開設し、自宅で生活する人たちに必要な看護・リハビリを提供する方法です。
訪問看護は、介護事業の中でも設備投資少なく開始できる事業です。老人ホームやデイサービスのように大きな建物・広い敷地を用意する必要がありません。それに加えサービスを提供するための設備・備品も少ないので、利息やランニングコスト等が抑えられ、利益が出しやすいです。
また、訪問看護は、利用者の状況に応じて医療保険も適用になります。例えば、要介護認定を受けていない神経難病の利用者は医療保険で訪問看護を行います。介護保険・医療保険対象者どちらも受け入れることができるので、より多くの利用者層にアプローチできるのが訪問看護の特長です。さらに、緊急時に備えて連絡・訪問体制を整えたり、中重度の利用者に対してサービスを強化したりすると加算がつく等、経営次第で、利益をアップしやすいです。
実際に、厚生労働省の「令和5年度介護事業経営実態調査結果」によれば、訪問看護事業所の収支差率は令和元年度が4.4%であったの対し、令和4年度は5.9%に上昇しています。経営面からすると、訪問看護は、コストを抑えつつ基本報酬と加算による採算が取りやすいおすすめの介護事業です。
老人ホーム事業
もうひとつは、サービス付き高齢者向け住宅や介護付き有料老人ホームといった老人ホーム事業です。特に注目すべきは、医療的ケアの提供体制を強化した住宅型有料老人ホーム、いわゆる「ナーシングホーム」です。
ナーシングホームとは、看護師を手厚く配置したり、近隣の訪問看護事業所と連携したりし、医療依存度の高い方も受け入れ可能な医療的ケア・介護体制を整えた施設です。多くの場合、住宅型有料老人ホームの機能を持つ施設を利用し、サービスが展開されます。
近年、日本では、入院期間の短縮・療養病床(療養できる病院のベッド数)の減少が進んでいます。それにより、継続的に医療的ケアが必要にも関わらず行き場がない、医療依存度が高く介護施設に受け入れてもらえない、というケースが増えています。言い換えると、介護と医療的ケアが併用できるサービスが求められているのです。
ナーシングホームでは、利用者は、医療保険・介護保険・障害福祉サービスを活用し、さまざまなサービスを受けることができます。これは、経営者側からすると、介護保険に加えて
医療保険・障害福祉サービス利用による収益も期待できるということです。
国としては、可能な限り入院期間を短縮し、介護施設を含む自宅で暮らすことを推進しています。国の方針や社会のニーズを踏まえると、ナーシングホームは、今後ますます伸びていく事業であると言えるでしょう。
まとめ
高齢化率が上昇し要支援・要介護者が増加したことで、たしかに社会全体の介護ニーズが高まっています。しかしながら、それとともに事業者の数が増え、介護業界の競争は激しくなっています。
今回は、これから参入すべき介護事業として、「訪問看護事業」と「老人ホーム事業」について紹介しました。訪問看護は、開設資金や設備費といったランニングコストが抑えられ、採算の取りやすい事業です。老人ホーム事業では、ナーシングホームという形態にすることで、介護保険に加えて医療保険・障害福祉サービスからの収益も期待できます。
また、介護を必要とする方やそのご家族のニーズも多様化しています。医療的ケアを受けながら家族と一緒に自宅で暮らしたい、持病があるし一人暮らしで不安だから医療的ケアのある介護施設に入居したいといったように。介護サービスや介護施設に求められる役割が広がっています。
訪問看護や老人ホーム事業は、どちらも多様化するニーズに応え、医療的ケア・介護を必要とする方たちの受け皿となるサービスです。どのような事業を展開していくべきか。参入すべき事業に悩まれているようでしたら、訪問看護や老人ホーム事業運営を検討してみてはいかがでしょうか。